Healing Discourse

ヒーリング随感2 第2回 運勢の活性化

◎あらゆる「道」において、その深奥へと到達すべく真剣な努力を継続しつつあるすべての人々に対し、私は「グノーティ・セアウトン」と強く呼びかける。
 グノーティ・セアウトン、汝自身を知れ。賢人・ソロンの言葉。古代ギリシア最高の聖地の1つ、デルフィのアポロン神殿に、箴言として掲げられていたといい、ソクラテスもこれを座右の銘としていた。

 自分自身を体感的に知るためには、これまで何度も繰り返し述べてきた通り、頭(脳)ではなく、手を使う。
 私たちの手には、様々な秘密が隠されている。手は全身と対応し合っている。だから、手に働きかけることで、身体をトータル(総合的)に調律していくことができる。

◎手をかく使うべしというガイドラインが、私たちの手には暗号のように刻まれている。いわゆる手相の掌紋だ。
 掌紋(指の皺も含む)とは、手指が折れ曲がる際にできる皺(しわ)だ。
 そんなことは誰でもわかっていると思う。が、豈図[あにはか]らんや、大抵の人は掌紋を歪めるような手の使い方を、無意識のうちにしてしまっている。

◎指の腹にも中心がある。そしてそれは、指紋の渦の真ん中だ。
 明るいところでよく観察してみれば、実際の指紋の中心は、あなたが「指の腹の真ん中」とこれまで漠然と感じていた処とは、かなり違う場所(大抵、もっと指のつけ根寄り)にあることを発見して驚くかもしれない。
「ちゃんと正しく認識し、使っていた」という人と、私はこれまで一度も出会ったことがない。これもまた、「仮想身体」だ。

 指紋の渦の真ん中を、指の腹の中心として意識すれば、指紋の溝を深くしたり浅くしたり、自在にできるようになる。非常に幽[かす]かで繊細ではあるが、それなりの観察眼を持つ者なら、自他の身体において明らかに確認できる。
 そういう指でそっと指圧されると、力を入れて押すようなことはまったくしていないのに、その内部にある骨が動き出す。骨格の組み替えが始まる。『ヒーリング・アーティスト列伝』第1章でご紹介した井上仲子の筋骨矯正術においても、同様の手法が使われていた。
 
◎手は全身を映し出す鏡だ。逆に、手に起こった変化は全身に大きな影響を与える。
 だから、手相(手のすがた、形)を歪ませるような手の使い方には、全身の歪みが端的に表現されている。そういう手で生きるのは、自らの天性(自然のあるがままの姿)に背き、よじれ、足掻(あが)きもだえることにほかならない。

◎手相を活性化することは、現実にできる。今回は、特に掌紋からアプローチする手法をご紹介する。
 掌紋とは、前述したように手を様々に使う際できる皺[しわ]だ。それに基づき手を使うことで、手の骨格配置を整えていくことができるようなもの。
 手の骨格が変われば、あらゆる行動の質が変容する。例えば、手を振るといったシンプルな行為でも、細やかさにおいて、滑らかさにおいて、自然さにおいて、まるで比較にならない質的変容が起こる。それもたいてい、極めて短時間のうちに変化する。
 手の骨格が変わる時には、全身もあちこち組み替わっていく。各自の掌紋に基づき手を使うことは、私たち1人1人にとり最も本質的で・理想的で・楽なモードであると、理屈抜きに体丸ごとで理会できる。
 
◎私たちの人生が思うように展開していかないとしたら、その大元まで原因を探っていけば、実は、手相が歪むような体の使い方をしていることが根本にあるのではなかろうか? 少なくとも、現在ただ今の人生の状態(生き方)と、我々の身体のあり方(調律度)とが、密接な対応関係にあることは確かだ。
 身体の調律度がより高くなるに従い、私たちは自らの存在感を極めて切れ味鋭く、滑らかで、変化自在なものと感じるようになる。いかなるライフスタイルであろうと、全生命を燃え上がらせる充実した生き方ができるようになる。

◎その時、あなたは運勢と最高に調和が取れている人の手相(素直でナチュラルな手)を体現するようになる。運勢とは、各自が生まれながらに備えている可能性のことだ。
 あなたの手が、いやしの妙なるヴァイブレーションに振るえる。すると、あなたの全心身が、ヒーリング共振を起こし始める。
 
◎『奇跡の手』でご紹介した蓮華掌には、手相(掌紋)を使ってレット・オフを起こすやり方もある。単行本で説いたレベル1〜4すべてに適用できる。
 フォーミュラは、以下の通り。

<フォーミュラ>
 労宮(あるいは掌芯)の皺を、ゆっくり柔らかく深め、次に、その深めようとすることをレット・オフせよ。

 労宮とは、掌の真ん中にあるツボだ。掌の中心。最初はわかりにくいので、掌中央の大きく浅く円いくぼみ(掌芯)を使う。
 レット・オフの際は、皺を「深め続けようとする(維持、キープと関わる)」ことをオフにするのでなく、「深めようとする(動き、変化と関わる)」ことをオフにする。両者の意図は、方向性(向き)がまったく違う。
 私の言葉を、ただ流し読みするのでなく、1つ1つ自分の体で実験・確認しながら、一緒に進んでいっていただきたい。
 掌芯部にある皺を少し深めておいて(すると掌全体の皺が、指の折れ線も含め、同時に深くなる)、それをレット・オフする・・・・・・・・・・・・・と、・・・少しずつ・・・・・少しずつ、・・・・・何分もかけて・・・・・・・「ほどけ」がゆっくり・・・・進行して・・・い・く。これは、瞑想にピッタリの修法だ。
 楽な姿勢で、片手(慣れてきたら両手)で蓮華掌(掌芯がやや沈んで深くなった手形)を造り、それを掌芯の皺を深めることで凝集し(指が閉じる)、レット・オフ(指が開いていく)。
 タッタこれだけで、たちまち深い瞑想状態へと誘われる。スーッとあたりが静まり返ったようになる。
 静かになったのは、実はあなた自身の内面だ。周囲(外)ではない。

◎上記の修法と交えながら、掌紋を1つずつ活性化させていくとよい。
 指の爪の先で、掌紋のどれでもいい、好きな線に添って軽くヒーリング・タッチする。・・と、タッチした線(皺)がジリジリ振動し始め、体全体にその影響が響いてくる。
 コツは、皺ABの中間点Cと爪でヒーリング・タッチする際、Cに真っ直ぐ垂直に爪の先を当て、CA(及びそれに直交する爪)とCB(及びそれに直角に当たる爪)を同時に、均等に意識すること。
 このようにすると、皺に微細な振動が発生する。そして、その振るえ方(波長)は、各皺によってそれぞれ違う。
 これはいわば、「運勢を奮い立たせる」術[わざ]だ。
 特に、掌芯の中心部(労宮のツボ)が伏在する線によく行なうと、神明掌(ヒーリング・タッチ)の感度/性能がどんどん向上していく(写真参照)。

◎上記の修法に、以前ディスコース『ドラゴンズ・ボディ』などで説いたワンフィンガー・ゼン(一指禅)を応用する・・・と、その効果がひときわ一層、冴え渡ることだろう。
 と同時に、ワンフィンガー・ゼンに、「指し示す先端は、爪の先(断面)」という新要訣をクロスオーバーする。それにより、一指禅の威力そのものが一気にバージョンアップされる。

◎私が述べていることがおわかりだろうか?
 ピンと来ない方は、壁の前に立って心を鎮め、中指先を伸ばして壁に軽く充て、ゆっくり柔らかく粒子状に、壁に対して指を突っ張っていくといい。
 普段、私たちが「指先」と考えている「指先端の肉が丸くなっている箇所」を、まずは指先として壁に真っ直ぐ充て、軽く突っ張ってみる。最初はごくごくかすかな力で。
 次に、爪の先端を壁に直角に充て、同様にして、小さくゆっくり柔らかく、突っ張っていく。
 力が、体の外側にブレないように。

 違いは、明らかだろう。
 あなた方が、これまで「指先」と思っていたのは、それは実は指の先端ではなく、本当の指先は、そこからさらに1〜2ミリくるりと大きくカーブしたところの、「爪の先」だった・・・・。そこで壁を突っ張らないと、全然しっかりしない。全身が「ピン」と一体化しないはずだ。
 爪の先から、手・腕の伸筋側を通り、全身の伸筋とたちまち響き合って一如[いちにょ]となる作用が、あなたには感じられるだろうか? 
 いったんコツがわかれば難しいことは何もない。よくよく練修することだ。女性的繊細さをもって。

◎「指差すこと」は、人間にとって、最も根源的な行為の1つだ。小さな子供は、誰に教えられたわけでもないのに、ある日突然、いろんなものを指差し始める。
 指差しを通じ、幼児は自らの伸筋に力を充たし、外界へと自らを押し出すように、自ら「生え出て」いく。世界の中に、「自分自身」の存在を結晶化させ始める。
 それは、自我(わたし)の萌芽だ。同時に、世界からの切り離しでもある。

 そうした本源的行為を、強調し(自我を強調)、レット・オフによる振るえを起こす。つまり、自我を振るわせる。そうやって内的熟成を図る。
 ヒーリング・アーツは、自我をまず充分成熟させるよう教え、導く。
 誤解しないでいただきたい。自我を「拡大・膨張させる」のではなく、内面に向かって細やかに解きほぐすことで、「ほどき・熟成させる」のだ。
 すると、熟れた果実が自然と落ちるように、自我はふわりとほどけて実体感を失ってしまう。そうなって初めて、自我とはある種のブロック(塊)、あるいは仮想だったのだとわかる。が、それは単なる結果に過ぎない。
 現在の自分自身を、ただあるがままに受け容れ、それを強調してレット・オフし、振るわせさえすれば、それでよい。つまり、自我にたまふりを起こす。
 これが、神明流一指禅だ。ヒーリング・メディテーションの道だ。
 ちょっと習熟すれば、深い内的静寂の境地を、自宅で気軽に満喫できるようになる。たったそれだけのことがどれほど人を「いやす」ものか、それは瞑想を実践する者だけが知る人生の秘密だ。

<2010.05.06 蛙始鳴(かわずはじめてなく)>